【ニュースレター】日本人の生活様式と膝関節疾患の治療

2014年11月19日

 

バイオメット・ジャパン主催のプレスセミナー、「高齢化社会における膝関節症治療~日本人の生活様式と膝関節~」での講演内容をお届けします。


変形性膝関節症のQOLへの影響

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関節疾患が要支援・要介護の大きな要因に

高齢化が進む中、関節痛を訴える高齢者は非常に多く、65歳以上では、男性で約1割、女性で約2割弱に及びます。関節疾患はQOLを低下させる大きな要因にもなっており、要支援・要介護認定を受けた原因疾患をみると、関節疾患約11%、骨折・転倒約12%、両方合わせて約23%と、整形外科関連の疾患は脳血管疾患に匹敵する高い割合を占めています(表1)。介護予防の促進、医療費削減の観点からも、整形外科関連の疾患は重要視すべき分野であると言えます。

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表1/厚生労働省:平成25年国民生活基礎調査 概況 「第14表 要介護度別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合」より人工関節ライフが算出・作成

中高齢者の膝関節痛の大半は"変形性膝関節症"

中高齢者の膝関節痛の原因のほとんどが変形性膝関節症です。変形性膝関節症とは、一言で言うなら、関節の変性・摩耗と骨の増殖変化を伴って関節が変形する進行性の疾患。膝の関節軟骨の劣化や摩耗によって軟骨が消失し、骨同士が直接ぶつかるようになり、それを修復しようとするために骨棘(骨のとげ)ができるなど、膝関節が変形していきます。

重症になると下肢の変形(O脚やX脚)や歩行時に不安定性が見られるなど外見からも分かるようになり、日常生活動作に不自由が生じます。日本では4対1の割合で圧倒的に女性に多い関節疾患です(図1,2)。

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図1/変形性膝関節症の図

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図2/O脚の写真
変形性膝関節症が重症になると膝関節が大きく変形する。歩くときに脚を引きずったり、不安定になる

治療目的は、除痛と機能改善

変形性膝関節症の治療では、痛みをとることと、膝の動きをスムーズにするなどの機能改善を目指します。治療方法は、まず保存的療法(薬物療法、運動療法、装具療法)を実施します。

保存的療法で効果が得られず、痛みや運動障害によって生活に支障をきたしている場合は、関節鏡による小手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術といった外科的治療を行います。

近年は軟骨再生医療の研究が進んでいますが、実用化までには20年以上かかると考えられています。さらに変形性膝関節症のように関節が変形した状態では、再生軟骨を導入しても再び変性してしまうため、人工膝関節置換術などの外科的治療の必要性は依然高いと考えられます。

人工膝関節置換術の有効性

患者ベネフィットをもたらし、医療経済上のメリットも

QOLを改善するために、膝関節の痛みを解消することは、非常に重要です。現在のところ、変形性膝関節症の外科的治療の中で最も高い除痛効果を期待できる治療は、人工膝関節置換術です。

関節鏡による小手術は、関節が高度に変形した症例での効果は限定的です。高位脛骨骨切り術は、脛骨の一部を切除したり延長したりしてO脚を矯正する治療法であり、効果は期待できますが、入院治療が長期間になる傾向があるため、その手術数は減少傾向にあります。

人工膝関節置換術は、変形した膝関節をそっくり人工物に置換する治療法です。入院期間は平均3週間で、患者のベネフィットだけでなく、医療経済上もメリットのある手術であるといえます。

人工膝関節置換術の手術件数は増加の一途をたどっており、現在は年間約8万件(表2)に及びます。ただし、人工関節先進国のアメリカと比べると日本はまだ少なく、今後さらに増加することが予想されます。

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表2/㈱矢野経済研究所「2013年版メディカルバイオニクス(人工臓器)市場の中期予測と参入企業の徹底分析」のメーカー出荷ユニットベースをもとに人工関節ライフが手術件数として作成

痛みを軽減、耐久性を向上し、QOL向上に寄与

人工膝関節置換術は現在、ほぼ確実に除痛の効果が期待できます。膝関節の痛みが改善し、立ったり歩いたりといった機能が回復すると、腰や股関節、足関節といった隣接関節への負担も軽減されるため、身体全体としてのQOLを向上させる効果も期待できます。女性の場合は特に、脚の変形矯正による美容的な満足が得られることも大きなメリットです。

 

人工膝関節の耐久性についても1970年代より着実に向上しており、再置換(やり直し)は10年で約5%、20年で約10%と非常に良好な成績を得ています(※1)。

※1 出典:Swedish national registry(2011)

日本人に適した人工膝関節の条件

日本の生活様式で求められる深屈曲を探求

日本人に適した理想的な人工膝関節とは、術後の痛みがないことに加え、生活に支障のない機能性を備え、耐久性にも優れていることだと考えます。除痛効果と耐久性については、海外、国内ともに患者満足度は高く(表3)、その点において人工膝関節はかなりの水準に達していることが実感できます。しかし一方で、機能性では国内外ともに患者満足度はそれほど高くありません。

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表3/人工関節術後の患者満足度
格谷義徳、人工膝関節置換術に残された問題点とその対策
第87回日本整形外科学会、神戸、2014年5月

特に日本人の場合、床からの立ち座りや畳の部屋での生活により、膝を深く曲げる動作が多いという特色があります。そのため、人工膝関節に残された課題は、安全で安定した深屈曲を可能にすることでした。

膝を最も深く曲げる体勢は正座です。しかしながら正座時に、膝関節がどのような状態にあるのか、ごく最近まで解明されていませんでした。そこで、正座をしたときの膝関節をオープン型MRIで詳細に調べたところ、正座とは体重によって膝を無理やり曲げ、さらに大きな回旋を伴った「亜脱臼」状態であることがわかりました(※2)。

人工膝関節を挿入した状態で正座をすることは、疼痛や脱臼、破損といった術後合併症を起こすリスクも伴います。実際、深屈曲によって人工膝関節にこのような術後合併症が起こることが、2004年にすでに報告されています(※3)。

※2 出典:Nakagawa,S.,Kadoya,Y., et al. Knee kinematics in deep flexion-analysis with MR imaging. Journal of Bone and Joint Surgery (BritishVolume). 2000,vol.82-B,p.1199-200.

※3 出典:近藤誠,北川洋,金粕浩一,格谷義徳. 深屈曲を達成した人工膝関節置換症例の成績と合併について 整形災害外科. 2004. vol.47, no.2, p. 171-180.

深屈曲での回旋に対応し、 安定性に優れたデザインの追及

バイオメット・ジャパンと日本人向けの人工膝関節を開発するにあたり、日本人医師を含めた開発チームは、深屈曲しても破損し難く、術後合併症が生じ難い安全なデザインであることを追求しました。その結果到達したのが、可動域が良好なPS(Posterior-Stabilized)型と、摩耗に強く、生理的運動の緩衝装置や安全弁としての機能を併せ持つポリエチレン製のモバイルベアリング(Mobile Bearing)機構の採用です。

再現性の高い手術を行うための 専用器械と術者の教育

人工膝関節は置換したら永久に持つものではありません。緩み、感染症、不安定性などのトラブルが起こることがあります。このうち、不安定性は、多くの場合、正確な手術手技によって防ぐことが可能です。近年、人工膝関節置換術は、総数の6~8割が"月1 Surgeon(外科医)"と呼ばれる月に1~2例、年間10~20例を執刀する医師によって行われています。専門家による手術から一般的な手術へと進む中で、"よい手術"を実現し、普及させていくことが大切です。

私が考える"よい手術"とは、誰でも、安全に、再現性のある結果が得られること。そのためには、いわゆる「神の手」が要らない専用の手術器械を開発し、よい技術者としての外科医を育てる教育が必要です。

人工膝関節のインプラント開発では、優れた製品開発とともに"よい手術"の実現にも取り組むことで、製品の付加価値が高まり、患者満足度とQOLの向上へとつながっていくのだと思います。


製品紹介(弊社プロダクトマネージャーより) Vanguard RP High Flex(RP)

「深く膝を曲げても安全」、「膝を曲げても長持ちする」をコンセプトに

「Vanguard RP High Flex」(以下RP)は、日本人の生活様式に合わせて、「深く膝を曲げても安全」、「長持ちする」という2つのコンセプトを元に、格谷義徳先生を始めとする3名の日本人医師を中心に開発されました。RPは、2014年9月末現在、約1万3000例使用されていますが、臨床現場からの要望を吸い上げ、現在、さらに改良を加えた新製品の開発に着手しています。

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軟骨の役割を果たすベアリングインサートの機能性と耐久性を向上

RPは主に3つの部品で構成されています。大腿骨側と脛骨側の金属性パーツの間にベアリングインサートと呼ばれる、ポリエチレン製のクッション材が挟まるという構造です。
RPは、日常生活動作中、膝がぐらつき、安定しないという状態への対応と、力が集中するために起こる摩耗、破損などを防ぐため、ベアリングインサートのポストの構造を中心に開発されました(図3)。

図3/Vanguard RP High Flex

また、ポリエチレンの摩耗による不具合は人工膝関節の部品に由来する再置換の最大の原因となっています。多くのインプラントメーカーは、大きなポリエチレン板から製品を切り出すシートモールディングという製法を採用していますが、この製法は大量生産しやすい反面、製品品質にバラつきが出やすくなります。

RPではダイレクトコンプレッションモールディングという製法で粉末のレジンを一つ一つ鋳型で成型してより均質なポリエチレンにすることで、耐摩耗性の高いベアリングインサートを実現しています。 

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1ミリ、1度の匠の技を可能にする手術器械を日本で開発

日本の整形外科医はまさに匠の世界。術後の安定性向上に欠かせない、1ミリ、1度を厳密に追求する医師をサポートするために、手術器械Pro-Flex G(図4)を日本で開発・製造し、手術手技とともにその普及に努めています。日本の医師向けに開発されたPro-Flex Gですが、海外でもこのジャパン・クオリティが評価され、今後、ヨーロッパ、アジア各国、アメリカでの使用が予定されています。

図4/手術器械(Pro-Flex G)

販売名:バイオメット トラック ニー システム
承認番号:21400BZY00315000
販売名:バイオメット PFG インスツルメント
届出番号:13B1X00232000301 


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