デュアル・モビリティ(二重摺動)システムを日本初導入

2013年3月5日

 

バイオメット・ジャパン株式会社(本社:東京都港区芝公園2-11-1)は、 広い可動域と高い脱臼抵抗力をもつ『デュアル・モビリティ(二重摺動)』システムと、 ビタミンEを浸漬/浸透させることでポリエチレンベアリングの酸化による劣化の防止が期待できるバイオメット社独自の『E1(イーワン)』テクノロジーを融合させた、 次世代の人工股関節を2013年3月1日より販売開始しました。


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人工股関節には、摺動面摩耗や、材料の酸化などによる劣化を極力防ぎ耐用年数を延ばすこと、そして脱臼を防ぐことが求められます。 脱臼を防ぐための主なアプローチは、大きなヘッド(図1c)を用いることが挙げられます(注)が、 一方で、ヘッドを大きくすると、ライナー(b)との間で摩擦が大きくなるというジレンマがありました。

注:脱臼は、可動域を越える動きをした際に、ヘッド(c)がライナー(b)を乗り越えることで発生します。 大きなヘッドを用いると、可動域が広がり、また、ヘッドがライナーを乗り越えるまでの距離が長くなるため、脱臼が発生しにくくなります。

図1)一般的な人工股関節

そのジレンマの解決が期待されているのが、デュアル・モビリティ(二重摺動)システムを用いた本製品です。 本システムは、従来品では図2 左図のように、一箇所で摺動していたのに対し、図2右図のように二箇所で摺動することが特徴です。 また、本システムでは、③E1テクノロジー使用ベアリングが従来の人工股関節での大きなヘッドの役割を果たします。

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日常生活に必要とされる、小さな動きの際は、図3 Aの摺動範囲内で摺動します。 この際、摺動距離が少ないため低摩耗で動くことが可能であり、さらに、バイオメット社独自の、より摩耗しにくい「E1テクノロジー」ベアリングを用いることで、 一般的な人工股関節より90%以上摩耗を抑えることが実験結果で明らかになっています
また、ヘッド(図2右図④)はベアリング(図2③)によってスッポリと覆われているため、ベアリングの中から外れにくい構造となっています。
※社内実験に基づくデータです。

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日常生活の動きは 図3 Aの摺動範囲内で十分ですが、より大きな動きをした際は、Bの摺動範囲内で摺動します。 このとき、ベアリングがヘッドの役割を果たすため、大きなヘッドを用いるときと同じ原理が働きます。 同じ大きさのカップを用いた従来品の可動域が122°であるのに対し、本製品の可動域は163°と、高い脱臼抵抗力を備えています。

近年、比較的若い段階で、人工股関節手術を希望される方も多くなってきました。 若い患者さんは、術後に活動性の高い生活を求めるため、人工股関節には高い脱臼抵抗力が求められます。 本製品は、そういった高い活動性を求める患者さんや、筋力が弱く脱臼のリスクが高い患者さんに適しているほか、 日本で年間約7万件発生している大腿骨頚部骨折の治療法としても期待されています。

大腿骨頚部は、血液の循環量が少なく骨が癒合しにくい箇所のため、骨折時には人工骨頭挿入術(バイポーラ)が行われます。 この手術では、人工股関節置換術と違い、カップ部分の骨(寛骨臼)は人工物にしないことが特徴です。 欧米では、カップ部分の骨(寛骨臼)も人工物にする人工股関節置換術をすることが一般的ですが、 脱臼のリスクから活動性を維持することが難しくなるため、日本ではバイポーラが主流となっていました。 しかしながら、寛骨臼をそのまま残した場合、徐々に寛骨臼が削れてしまったり、痛みが出るといった報告もされています。
そこで、脱臼抵抗力が高い本製品を使用することで、活動性を維持しながら、それらの問題も解決できることが期待できます。

バイオメット・ジャパンでは、本製品の導入により、手術後に活動的な生活を望む多くの患者さんの期待に応え、患者さんのQOL向上に貢献していくことを目指しています。

<「E1™」技術の詳細>

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①HXLPE(ハイリークロスリンクポリエチレン)の原理

ポリエチレン分子は炭素原子と水素原子から構成されています。 γ線を照射されたポリエチレンは、炭素原子と水素原子の結合が一部切断されます。 切断された状態(フリーラジカル)である炭素原子同士が再結合すること(クロスリンク)で、 ポリエチレンの分子同士が複雑にからみあうようになり、耐摩耗性が高められます。

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②残存フリーラジカルの除去

クロスリンクをせずに残存したフリーラジカルが酸素と結合するとポリエチレンが酸化することになります。 ポリエチレンの酸化は劣化に繋がり、耐摩耗性を著しく低下させます。 そのような残存フリーラジカルを除去するためには、熱処理をする必要があります。 フリーラジカルを完全に除去するには、ポリエチレンを一度熱して融解させる方法(リメルティング)があります。 リメルティングはフリーラジカルを完全に除去することが可能ですが、機械的強度が低下してしまいます。 また、最近では体内の環境下での酸化が確認されています。 一方で、機械的強度を下げずに融点を超えない温度で熱処理をする方法(アニーリング)も存在しますが、 こちらはフリーラジカルを完全に除去できず、耐酸化性に課題を残します。

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③フリーラジカルが酸化の原因に

酸素が豊富に循環する人体の中にHXLPEを長時間置いておくと、 残存したフリーラジカルに体内の酸素が反応し、これが酸化の原因となり、 酸化した部分が脆くなって摩耗や破損につながります。

④ビタミンEの浸漬/浸透による効果

ビタミンE(α-トコフェロール)は食品の酸化防止剤としても広く利用されています。 また、ビタミンEは体内においても抗酸化物質として重要な役割を果たしています。 浸漬/浸透させたビタミンEはHXLPEの中において、フリーラジカルが酸素と結合するよりも早く反応し、 フリーラジカルを安定化させることで酸化を防ぐことができます。

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ビタミンEを浸漬/浸透させる「E1 」テクノロジーはマサチューセッツジェネラルホスピタル (MGH)がその技術を開発し、 バイオメット社との協力により製品化に成功したユニークな技術で、特殊な方法と条件下でHXLPEをビタミンE溶液に浸すことで、 内部まで均一な浸透が可能となります。
他にも、ビタミンEの粉末/液体をポリエチレンの原材料に混ぜ込む方法もありますが、 HXLPEの製造過程でフリーラジカルとビタミンEの結合が起きてしまうため、クロスリンクが阻害され、耐摩耗性に影響する可能性が示唆されています。 「E1 」の技術では、クロスリンクした後のポリエチレンにビタミンEを浸漬/浸透させるため、ビタミンEがクロスリンクを阻害することがありません。 

<参考資料>

人工股関節置換手術について

人工股関節置換手術は、変形性関節症をはじめとする股関節の痛みに対する治療のため、股関節を人工関節に置き換える手術です。 近年、人工関節材料の進化や新しい技術の開発などにともない、年々手術件数が増加し、2010年には年間約4万5千人が手術を受けています。 一方で、主な原因疾患である変形性股関節症の国内の潜在的な患者数(X線診断による有病者数)は、約120万人~420万人と推定されています

*「変形性股関節症診療ガイドライン -疫学・自然経過-」稲葉裕 高平尚伸 斉藤充 杉山肇 福田寛二 久保俊一 平成19年10月日本股関節学会

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出所:(株)矢野経済研究所「2012年版メディカルバイオニクス(人工臓器)市場 の中期予測と参入企業の徹底分析をもとにバイオメット・ジャパンが作成


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